『マンガ リストカット症候群から卒業したい人たちへ―ストップ・ザ・カッティング―』

マンガリストカット症候群から卒業したい人たちへ―ストップ・ザ・カッティング―

マンガリストカット症候群から卒業したい人たちへ―ストップ・ザ・カッティング―

 自傷者であった著者の経験や著者の知人の話などを漫画で描き、
精神科医のコメントとともに、自傷行為について書かれた本です。
内容は重いですが、分量は軽く1時間もかからずに読めます。
気になった点はいくつか。
ただ、これは専門書じゃないので、包括的に詳しく書かれているわけでもないので、
十分良い本だと思います。


 まず、リストカット症候群という臨床単位の使用について。
リストカット症候群は40年程前に臨床単位の存在を否定されています。
リストカットリスカの名を題に含む本は2000年代になっても
多く出版されていますが、それについても「ちょっとどうなの」と僕は思ってます。
その理由が二つ目に気になった事です。
リストカット」「リスカ」と言えば、それを知らない人はいない程に
言葉として広まっていると思いますが、それって何だか危険だと思います。
僕自身、最初の衝動的な自傷は手首を切ったのですが、
自傷リスカというように思っていました。
自傷行為と言えば、リストカットというような認識は、
最初の衝動的な自傷リスカを選んでしまう可能性を
高めるのではないかな、とか思ったりします。
実際はどうか、分かりませんが…。
動脈が皮膚から近いところにある手首を切るのは、腕を切るより危険だと思います。
自傷リスカという認識は、最初の衝動的な自傷リスカを選択することを
助長していたりはしないのかな、と思います。

 あとはそうですね…
著者が主婦だったり、女性であることとも関係があるのかもしれませんが
主題的に語られる自傷者は全て女性です。
唯一出てくるのは、病院で著者に「自傷を見せ」てきた男性患者のみです。
んー、自傷行為に性差は無いと言われていたりします。
病院に受診している自傷者は全体からすれば氷山の一角ですし、
司法関連施設にいる非行少年で自傷者、などの存在も分かってきています。
ある意味、女性の自傷者のケースのみ漫画として描かれているのは、
しょうがないのでしょうが、ふむ、そうかと思って読んでました。

 最後に、描かれている自傷者のケースがどれも結構深刻です。
第1章のBさんとかは傷自体は深刻ではありませんが、
著者は自傷の後遺症で腕がうまく動かないとか神経を傷つけたとか。
その人の抱える問題の深刻度と傷の程度は比例するわけじゃないですが、
傷が深刻な自傷者の話ばかり描くと、自傷者の間の傷の程度に関する階級のような意識に
作用しちゃって、今まで傷の程度が浅かった人が深く…のようにならんかなあ、
著者はかなり慎重に気分が悪くなったら読むのを中断して、と書いていますが、
読んでて「自分の傷なんて」と思う人とかいるかもなあ、とか思ってました。